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VARIETY

食べもののおいしさ、面白さ 焼いてみては?

中山技術士事務所 中山正夫

調理のなかの「焼き」

かなり昔の話だが、仕事で岡山県倉敷に出かけた折、駅前の土産店で目に付いたのは、ご当地名産の「ママカリの酢漬け」だ。
この「ママカリ(飯借り)」とは、瀬戸内海で獲れる海魚サッパのこと。これがあまりにも美味なため、漁船に乗った漁師の食事で御飯を食べつくし、隣船から米飯(ママ)を借りて食べたほど。そのいわれからつけられたネーミングと伝えられる。特にこの酢漬けはサッパリ味で、酒によくあう肴として格好なものだ。
さて、店先に並ぶ「ママカリの酢漬け」商品は二種類あった。その一つはシンプルな酢漬け、もう一種は「焼きママカリ」を使った酢漬けであった。
そこで店の人に、なぜ「焼き」商品があるのか?と聞くと、酢漬けだけでも魚臭は消えるが、わずかな臭いでも気にするお客もいる。そのため、予め魚表面を軽く火焔で炙ってから酢漬けを行い、焼き香で生臭みを抑えるとのこと。結果として青魚を敬遠する若い人達にも好まれ、売れているとの話。両者を購入、わが家で試食し、「焼き香付与、生臭さマスキング効果」を改めて確認した次第だ。

「焼き」の多様化

ひと口に「焼き」といっても、その対象は畜産物、水産物、農産物などさまざま。たとえばビーフステーキの焼き方でも、牛肉の表面を焼くレア、中心部までジックリと焼くウェルダン、その中間のミディアム等々、お客の好みにあわせてのサービス。中間にミディアム・レア焼きも生れ、ボクシングの試合での体重別分類とまでいかなくとも、細かくなっている。
「焼き程度」によるクラス名称として広義には「炙り」や「炒め」、「煎り」も入れたい。
ここで「焼き」を使った食べものをあげれば、庶民的な「焼きとり」から始まり、焼き豚、焼き魚、焼きさば、焼きうどん、焼きまつだけ、焼き芋、焼き蛤、焼き竹輪、焼き味噌、焼き飯、焼きおにぎり、焼き餅、焼きリンゴ等々、と実に多く、調理との深い関係を示している。
一方、焼き方にしても、串焼き、網焼き、ホイル焼き、鉄板焼き、姿焼き、石焼き、手焼き、炭火焼き、包み焼き、白焼きなどといろいろ。
また、調味焼きでは塩焼き、かば焼き、味噌焼き、ソース焼き等もあり、さらにスナック菓子のなかには、石焼きならぬ粒状食塩を熱媒体にしてつくるユニークなものもある。

「焼き」の特徴

加熱調理法を使う熱媒体から比べてみると、「ゆで」は熱湯、「煮」は加熱調味液、「蒸し」は水蒸気、「揚げ」は高熱油、「焼き」は遠赤外線と熱空気などあり、それぞれの仕上がりに特徴が現れる。
「焼き」自体には、食材を刺したり、網にのせたりして加熱する「直接焼き」と、鉄板やフライパンの上にのせ加熱する「間接焼き」がある。
両法とも高温で熱することができるので、たとえば「焼き芋」の場合、ふかし芋(蒸し)では生まれなかった焼き香が食欲を刺激する。御飯のお焦げ香も同類だ。さらに「うなぎの蒲焼」では、調味液のたれ成分のしょうゆや砂糖と、うなぎが持つ脂肪やたんぱくとの高温反応(メイラード反応)を起こす。これにより見た目の褐変化と新規な香味により、おいしさを向上させてくれる。
一般の食材を焼くと、表層水分が蒸発して表面層が硬くなるもの。特に食肉や豆腐などのタンパク系食品は、熱凝固しやすい。おでん材に焼き豆腐を使うのも、また、煮魚でも予め軽く焼いた魚を使うのも、煮くずれ防止のためである。前出のビーフステーキも、最初は強火で加熱、次いで弱火加熱は、牛肉表面をまずは固めて、内部に含まれる旨味タップリのエキス分を、ドリップとして流出させないためだ。「おいしさ向上の技術」は身の回りにも数多く見られる。それをおいしさ創りに試してみてはいかが?

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